歴史ある建物を進化させたオランダのリノベーション建築に注目/前編

この記事を書いた人:松永香織 


建築やデザインにおいて、発想の豊かさを感じられるオランダ。新築の建物はもちろんですが、注目したいのは古い建物の再利用をした「コンバージョン」や「リノベーション」の物件であることはまだまだ知られていないかもしれません。


壊して新しく作ることは簡単ですが、古いものを残しながら新たな発想を取り入れ、別の形態へ生まれ変わらせるのは何倍も技術とアイデアが必要です。

素材とデザイン性を巧みに取り入れながら、なおかつ遊び心の詰まったオランダのデザインは建築に携わる身として大変刺激になり、唸るような思いをすることも。

日本においても、古い建物の活用や再利用については年々課題となっていますが、環境や街並みの保存、芸術性を重んじるヨーロッパでは古くからその点では何歩も先を歩んでいます。

数ある中でもぜひ訪れてみたい実例をご紹介していきます。

教会が驚きの使われ方に。700年以上の時代を超えた新しい姿

かつてはカトリックやプロテスタントの教会が多く存在したオランダですが、時代とともに閉鎖や廃止され、使われない教会が増え続けていました。教会としては維持管理に費用や手間もかかり、存続が難しい現実もあったためです。

オランダ自体にもキリスト教の浸透が昔よりも現在はそれほど深くなくなり、教会自体が利用されることも一部をのぞいて少なくなりました。

歴史を持ち、美しく魅力のある建物を有効的に利用するため、教会を商業的な目的で積極的に転換。その魅力をより生かしたまま、現在ではイベントスペースやレストラン、「世界で一番美しい」と言われている書店やホテルなど、さまざまにユニークな姿で使われています。

神秘性もあり、重厚なイメージの教会を自由さのある発想で柔軟に使いこなす姿勢には、オランダの合理性とセンスが生きています。

古いものを古く見せるのではなく、大胆で斬新な、対照的なデザインを取り入れる発想。

そして思い切った色遣いはなかなか通常の発想では思い浮かばないかもしれません。

さらりとデザインしているにも関わらず、完成すると全く違和感のなく、スタイリッシュでかっこいい空間が出来上がっています。

お互いの魅力を引き出し、全く違うスタイルを生み出すオランダのデザインは、どこの国とも違う力を持っていると感じます。

建物の空間デザインはもちろん、発想を超えた自由さと、チャレンジ精神が感じられる行動力。

デザイン性はもちろんのこと、利用する人々にとっての安全性や効率的な部分など、「人への優しさ」も感じられ、まさに「総合的なデザイン」が備わっているのがオランダのリノベーションデザインです。

銀行、学校、刑務所…公共建築を大胆に転換したホテル建築

かつて公共建築として使われていた建築物は、深い歴史を持ち壮大な建物も多く残ります。

重厚な建築の魅力を生かしながらモダンで洗練されたデザインで仕上げられた建物は、街の日常として馴染みながらさらに新しい歴史を重ねています。

数々の面白い建築がありますが、中でも多数の人が利用するホテル建築はなかなか知られていないながらも見応えのあるものがたくさんあります。

音楽学校がラグジュアリーな5つ星ホテルへ。コンサバトリアムホテル

こちらは19世紀の旧銀行から音楽学校へ使われた後、5つ星のホテルとして生まれ変わりました。

建物の荘厳さはそのままに、ガラスや鉄などを組み合わせて気品のあるモダンな空間は圧倒される雰囲気です。

かつて中庭だった場所もガラスの屋根や壁で室内に取り込み、開放的な大空間を実現させています。

今ではアムステルダムを代表する5つ星ホテルとして知られ、上質でラグジュアリーな時間を提供します。

中に入らないと感じられない開放感と、重厚でありながらも透明感と緑に包まれるインテリアは豊かなデザイン力が成せるものです。

 ダッチデザインを代表するリノベーションホテル、ロイドホテル(Lloyd Hotel)

オランダの代表的な建築事務所、MVRDVによるデザインのホテルです。「ダッチデザイン」の建築を代表するとして今では名の知られた存在となりました。

全ての部屋の内装が異なり、1つ星から5つ星の部屋までを同じ建物に実現させ、好みに応じて選択ができます。

ホテルとは思えないような、遊び心とアート性の高い設えが特徴で、117室ある全てが異なるレイアウトなので泊まるたびにおもちゃ箱を開けるような楽しみがあります。個性的な色遣いや肩にはまらないレイアウトは、訪れる人をいつもワクワクさせるホテルとして世界中から注目されています。

内部にはヒストリーを知ることができるギャラリーも併設され、宿泊をしなくても内部を楽しむことも可能です。

ホテルとしての形態のみならず、ライブやイベントなども積極的に開催されています。

ここ数年は「MONO JAPAN」という日本のものづくり・プロダクトを展示販売するイベントが催され、ユニークな各客室を使いながらファッションやテーブルウェア、お茶など日本との文化交流の場としてもこちらのホテルが使われました。

普段は見られない客室も同時に見られることから、多くの人々が訪れ画期的なにぎわいを見せました。宿泊までどんな部屋が案内されるかわからないのも、ここに宿泊する楽しみでもあります。

ホテル ニューヨーク(Hotel Newyork)

オランダはかつてアメリカを植民地にした歴史を持ちます。

オランダにある「ハーレム」などの地名はアメリカからの名残によるもので、現在もオランダ国内の随所でつながりを感じることができます。

ロッテルダムとニューヨークは19世紀から航路を持ち、アメリカへの移民の移動や貨物の輸送に大きな役割を担っていました。

ロッテルダムにある「ホテルニューヨーク(Hotel New York)」は当時の海運会社の本社をリノベーションしたホテルです。

建物全体はクルーズ船の内装をイメージした世界観が特徴で、格式を持った「ホーランド・アメリカライン」の船内を再現したインテリアが魅力です。

まるでクルーズをしているような雰囲気と、窓の外から見える景色は映画の中のよう。

クラシカルな雰囲気と、オランダならではのセンスの光る色遣い・古い素材やパーツの魅力を生かしたリノベーションデザイン力には思わず引き込まれてしまうでしょう。

観光的な名所としてガイドでの紹介はされていませんが、ぜひ一度訪れたい場所です。

レストランやバーバーショップなど、隅々まで世界観が再現されています。

ロッテルダムの近代的な建築を対岸に臨むロケーションにあり、周辺も年々新しい取り組みがなされている注目エリアにあります。

倉庫を利用したフードコートや、新しい技術を取り入れた集合住宅が建設予定。

歴史的な建築と、最先端の建築が同時に見られるロッテルダムも、オランダへ行かれた際はぜひ訪れてみてください。

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